世界・日本・北海道のHIV/エイズの状況
UNAIDS(国連エイズ合同計画)がまとめた“2009年HIV/エイズ最新情報”によると、2008年末の全世界のHIV感染者数は推定3,340万人に達し、うち、15歳未満の子供の感染者数は210万人にのぼります。
2008年1年間での新たなHIV感染者数をみると270万 人で、うち、15歳未満の新規感染者数は43万 人でした。
つまり、1日に7400人以上の人が新たに感染していて、そのうち1200人が15歳未満の子供ということになります。これら新規感染の97%以上が、低所得・中所得の国々で起こっています。
また、2008年1年間のエイズによる死亡者数は200万人で、うち、28万人が15歳未満の子供です。
サハラ以南のアフリカは最も強くHIVの影響を受けている地域で、2008年現在、大人の20人に1人がHIV陽性者であるといわれています。
HIV感染者数は2,240万人で世界の感染者数の67%を占め、2008年1年間の新規感染者数は190万人で、世界の新規感染者数の71%を占めています。また、2008年のエイズ関連死亡者数の72%がこの地域の人々です。
サハラ以南のアフリカの中でも南部アフリカが深刻で、世界で成人のHIV感染率が2桁台の高い9カ国(2007年現在でスワジランド26.1%、ボツワナ23.9%、レソト23.2%、南アフリカ18.1%、ナミビア15.3%、ジンバブエ15.3%、ザンビア15.2%、モザンビーク12.5%、マラウイ11.9%)はすべてこの地域です。
サハラ以南のアフリカでは特に女性と少女への感染拡大が深刻になっていて、女性がこの地域のHIV感染者の約60%を占めています。
この地域では異性間の性行為が主な感染経路で、スワジランドでは新規感染者数の94%が異性間性行為によるものでした。
中近東と北アフリカでは、2008年に3万5000人が新たにHIVに感染し、2万人がエイズで死亡しています。2008年末現在のこの地域のHIV感染者数は31万人と推定されています。
この地域全体でのHIV感染率は高くありませんが、注射による薬物利用者(IDU)のコミュニティ間に限っていえば、オマーン11.8%、モロッコ6.5%、イスラエル2.9%、エジプト2.6%、トルコ2.6%など高い感染率が報告されています。
中近東と北アフリカ地域で、注射により薬物を使用すると推定される人は約100万人で、一般的に注射器具が共有されていて感染拡大の原因となっています。
また、この地域のHIV感染拡大のもう一つの原因として、出稼ぎ先などの国外滞在時に感染して帰国し、国内での性交渉の相手を感染させてしまうケースが多くあげられています。
さらに、この地域では輸血や臓器移植、腎臓透析を原因とする感染の割合が高く、エジプトでは報告されたエイズ発症件数の6.2%が血液製剤使用によるもので、12%が腎臓透析に由来するものでした。レバノンでも輸血がHIV感染の6%を占める感染経路で、サウジアラビアではHIV感染者の12%が輸血によるもので、1.5%が臓器移植により感染しています。
アジア地域は、HIV感染率は1%未満と低くても、人口が世界の総人口の60%と多いため、サハラ以南のアフリカに続き、世界で2番目にHIV陽性者数の多い地域です。
2008年の新規感染者数は35万人で、2008年末現在でHIV感染者数は470万人となっています。
アジアのHIV感染者に占める女性の割合は、2000年の19%から2008年には35%へと上昇しています。インドでは2007年に39%となり、中国では過去10年間で約2倍になっています。
アジアでは、注射による薬物使用者(IDU)はHIV感染率の高い集団とされています。
アジアで注射により薬物を使用すると推定される人は450万人で、うち、中国は240万人といわれています。これらIDU間のアジア全体でのHIV感染率は16%と推定されていますが、地域によって非常に高いところも多くあります。
タイではIDUのHIV感染率が30~50%、ミャンマーではIDUの3人に1人以上(37.5%)、パキスタンで4人に1人(23%)がHIVに感染していると推定されています。インドネシアではIDUの半分以上(52%)がHIV陽性者で、女性のIDUの方が感染率が若干高いと報告されています。中国のIDUの感染率は6.7~13.4%ですが、雲南省のある県ではIDUの半分以上が(54%)がHIVに感染していると推定されています。インドでは7州でIDUのHIV感染率が10%を超えています。
アジアでは、男性と性行為をする男性(MSM)の間でもHIV感染が広がっていて、MSMのほぼ5人に1人(18.7%)が感染していると推定されています。国によって感染率はさまざまで、高いところもあり、タイのバンコクで30.7%、ミャンマーで29.3%、中国の重慶市で12.5%、南インドで7.6~18.1%、ラオスのヴィエンチャンで5.6%、インドネシアで5.2%となっています。
アジアの多くの国々では、セックスワーカーはコンドームを使用していないため、常に感染のリスクにさらされています。結果的に男性客の感染にもつながり、さらにその男性客のパートナーへと、感染拡大の要因の一つになっています。ミャンマーでは女性セックスワーカーの18%が、インドの4つの州では14.5%がHIVに感染しています。
男性セックスワーカーも同様に感染リスクは高く、タイでは男性セックスワーカーのHIV感染率は女性セックスワーカーの2倍以上で、インドネシアでは3倍近くになっています。
一方で、セックスワーカーを対象とした予防サービスも行われていて、売春宿の100%コンドーム使用の実施などで、タイの女性セックスワーカーのHIV感染率は1994年の33.2%から2007年の5.3%へと低下しています。
上記のように、アジアではこれまでHIVは、注射による薬物利用者(IDU)、セックスワーカーとその客、男性と性行為をする男性(MSM)といった人たちの間で感染が集中していましたが、徐々に一般の異性愛者の間にも広がってきていると報告されています。
東ヨーロッパと中央アジアの2008年の新規感染者数は11万人で、2008年末現在HIV感染者数は150万人に達し、2001年の90万人から66%の増加となっており、特にウクライナとロシア連邦の感染拡大が深刻になっています。
この地域の主な感染経路は注射による薬物使用で、2007年、東ヨーロッパの新規感染者の57%が薬物使用時の注射器が原因でした。東ヨーロッパの注射による薬物使用者(IDU)は370万人と推定されていますが、そのおよそ4人に1人がHIVに感染していると考えられています。ウクライナではIDUの38.5~50.3%が、ロシア連邦では37%が感染していると推測されています。
IDU間の感染拡大は著しく、エストニアではIDU間のHIV感染は10年前には確認されませんでしたが、最近の調査では、同国のIDUの72%が感染していることが判明しています。
北アメリカと西ヨーロッパ、中央ヨーロッパでは、2008年に8万5000人が新たにHIVに感染し、2008年末現在HIV感染者数は230万人に達しました。
これらの地域の高所得諸国では、注射による薬物使用者(IDU)間の新規感染は減少していますが、男性と性行為をする男性(MSM)間の新規HIV感染者数はここ10年で増加しています。
米国ではMSM間の新規HIV感染率は1990年代初頭以来増加しており、1991-1993年と比べて2003-2006年は50%以上増加しています。また、英国では2000年から2007年にかけてMSM間のHIV感染診断件数が74%増加しました。ヨーロッパ全般では、MSM間のHIV報告件数は、2003年から2007年にかけて39%の増加となっています。
西インド諸国の2008年末現在のHIV感染者数は24万人で全世界の0.7%、新規感染者数は2万人で0.8%と、世界の流行に占める割合は小さいですが、感染率は世界第2位で、サハラ以南のアフリカに続きHIV被害の深刻な地域です。2004年、エイズ関連の疾病は、西インド諸国の女性の死因第4位、男性の死因第5位となっています。
西インド諸国では、女性が全感染件数の約半数を占めています。セックスワーカーの感染率が高く、2005年の調査ではガイアナで27%、ジャマイカでは9%となっています。
また、男性と性行為をする男性(MSM)間でも感染が広がっており、ある調査ではジャマイカのMSM間で31.8%、トリニダード・トバゴで20.4%、ドミニカ共和国で11%のHIV感染率が報告されています。
ラテンアメリカでは、2008年に17万人が新たにHIVに感染し、2008年末現在HIV感染者数は200万人に達しました。
ラテンアメリカでは、男性と性行為をする男性(MSM)間の感染件数の割合が最も高く、MSMの3人に1人がHIVに感染している可能性があると疫学専門家は推定しています。国によって感染率にはばらつきがあり、エルサルバドルで7.9%、メキシコでは25.6%となっており、14カ国中12カ国で感染率が10%を上回っています。2006~2008年にアルゼンチンの4都市で行われた調査ではMSMの11.8%が、2009年にコスタリカで都市部を対象に実施された調査では調査対象の11%がHIVに感染していました。また、ペルーでは新規感染件数の55%をMSMが占めていると推定されています。
MSM間では新規感染率が特に高く、中央アメリカ5カ国(コスタリカ・エルサルバドル・グアテマラ・ニカラグア・ホンジュラス)で実施された感染状況調査では、年間100人につき5.1人が新規にHIVに感染していました。MSM間の感染率は、国民全般に比べ、エルサルバドルでは21.8倍、ニカラグアでは38倍の高さでした。
オセアニア地域では、2008年の新規感染者数は3,900人で、2008年末現在HIV感染者数は5万9,000人です。ほかの地域と比較してオセアニア地域の感染率は低いですが、パプワニューギニアに関しては、新規感染が増加しています。同国では、都市部よりも農村部の感染率が高く、異性間感染が累計HIV診断件数の95%を占めています。一方、オーストラリアやニュージーランドなどの高所得国ではMSM間感染が主流で、2003~2007年のオーストラリアの新規感染件数の86%を占めていました。
地域 | HIV感染者数 | 新規HIV感染者数 | 感染率(%) | 年間死亡者数 |
サハラ以南のアフリカ | 2240万人 | 190万人 | 5.2 | 140万人 |
中東と北アフリカ | 31万人 | 35000人 | 0.2 | 2万人 |
南アジア・東南アジア | 380万人 | 28万人 | 0.3 | 27万人 |
東アジア | 85万人 | 75000人 | <0.1 | 59000人 |
東ヨーロッパと中央アジア | 150万人 | 11万人 | 0.7 | 87000人 |
西ヨーロッパ・中央ヨーロッパ | 85万人 | 3万人 | 0.3 | 13000人 |
北アメリカ | 140万人 | 55000人 | 0.6 | 25000人 |
西インド諸国(カリブ海) | 24万人 | 2万人 | 1.0 | 12000人 |
ラテンアメリカ | 200万人 | 17万人 | 0.6 | 77000人 |
オセアニア | 5万9000人 | 3900人 | 0.3 | 2000人 |
合計 | 3340万人 | 270万人 | 0.8 | 200万人 |
日本のHIV感染者およびエイズ発症者の数は毎年確実に増加しています。
厚生労働省エイズ動向委員会の報告では、2009年(平成21年)12月末現在のHIV感染者およびエイズ患者の累計は16,879人に上ります。うち、HIV感染者は11,560人、エイズ患者は5,319人でした。
2009年1年間の新規HIV感染者および新規エイズ患者は合計1,452人でした。
新規HIV感染者数は1,021人で、過去3位ですが、2007年以降連続して1,000人を突破しており、10年ほど前に比べると約2倍の増加です。
同性間性的接触によるものが694件と約68%を占めており、異性間は210件で約21%でした。
年齢別では、特に20~30代の感染報告が多く見られました。
東京都を含む関東・甲信越と近畿からの報告が75%と多数を占め、うち、東京都369人、大阪府165人で、両地域を合わせると2009年1年間の新規HIV感染者数の半数以上にのぼります。
また、新規エイズ患者数は431人で過去最高と同数です。2006年(平成18年)以降、毎年400人以上がエイズを発症しています。
東京都を含む関東・甲信越と近畿からの報告が65%と多数を占めていますが、関東・甲信越では新規エイズ患者は減少傾向にあり、近畿では増加しています。
北海道の2009年(平成21年)12月末現在のHIV感染者・エイズ患者の累計は239人で、うち、HIV感染者は139人、エイズ患者は100人でした。
2009年1年間の新規HIV感染・新規エイズ患者数は34人にのぼり、過去最高となりました。北海道では2005年(平成17年)以来、毎年20人を超える新たなHIV感染・エイズ患者が報告されています。
2009年の新規HIV感染者は23人、新規エイズ患者は11人でした。また、2008年は新規HIV感染者が16人、新規エイズ患者が12人で、近年、北海道ではエイズを発症してから感染が分かる「いきなりエイズ」の患者が増えています。
北海道の報告数の多くを占めているのが札幌都市圏です。2008年(平成20年)札幌市の新規HIV感染者数は11人、新規エイズ患者が7人の合計18人で、北海道新規報告数の64%、2007年は合計19人(HIV感染者12人、エイズ患者7人)で82%を札幌市が占めていました。
また、2009年末時点の札幌市の新規HIV感染、新規エイズ患者報告数は24件で、累計は172人(HIV感染者112人、エイズ患者60人)となっています。